創業融資の審査を通すために知っておきたい、営業利益の重要性【融資担当者は損益計算書のどこを見ているか 】
岩手県で中小企業診断士として創業・経営支援に携わっております。Kuraコンサルティングの松田です。
「この計画書で、融資は通りますか?」 創業計画書を仕上げたとき、多くの方が抱く不安です。
数字は揃えた。でも、融資担当者が何を見ているかまでは、正直わからない。
実は、融資担当者は計画書全体を丁寧に読み込みます。
数字だけでなく、その数字の根拠、市場環境、事業者の経験や熱量まで含めて総合的に評価します。
だからこそ、損益計算書の数字は
「見栄えの良い数字を並べる場所」ではなく、「事業の実現可能性を語る場所」として機能している必要があります。
今回は、銀行員として融資審査に携わった経験から、融資担当者が損益計算書のどこに着目し、何を読み取ろうとしているかを実務の視点で解説します。
前回の「儲けの滝」の構造を頭に入れたうえで読むと、より理解が深まります。
融資担当者が重視する数字「営業利益」
5段階の利益のうち、創業計画を立てるうえで最も重視すべきなのは営業利益です。
「経常利益や最終利益ではないのか」と思われるかもしれません。
しかし、融資担当者の視点で考えると、営業利益が最重要になる理由が見えてきます。
「本業で稼げているか」が最初の問い
融資担当者が創業計画書を見るとき、最初に確認するのは
「この事業は本業で稼げる構造になっているか」という点です。
経常利益や最終利益は、営業外の収支や一時的な損益が混在しています。
例えば、補助金収入は単年度限りであることが多く、その年度だけ経常利益が黒字に見えても、本業の稼ぐ力とは切り離して判断されます。
一方、営業利益は本業の収益と費用だけで計算されるため、事業そのものの実力が最も素直に表れる数字です。
創業計画の段階では、特別利益も営業外収益も期待しにくい。
だからこそ、「本業で営業利益が出る計画になっているか」が、計画書の説得力を左右します。

返済原資として見られる「営業利益+減価償却費」
もう一歩踏み込むと、融資担当者は営業利益の数字そのものだけでなく、
「営業利益+減価償却費」という組み合わせで返済能力を見ています。
減価償却費とは、設備投資などの費用を複数年に分けて計上するものです。
100万円の機械を購入した場合、現金は一括で出ていきますが、PLには毎年少しずつ費用として計上されます。
そのため、営業利益に減価償却費を足した金額が、実質的に事業が生み出す「現金の稼ぐ力」=返済に充てられる原資として見られます。
なお、個人事業主の場合はもう一点加わります。
法人であれば役員報酬として販管費に計上できる経営者の生活費が、個人事業では利益の中から賄う構造になります。
つまり、「営業利益+減価償却費」が返済原資であると同時に、経営者自身が実際に生活できる水準の利益が確保されているかも、担当者は確認しています。
数字のうえで返済できても、生活が成り立たない計画では持続可能性に疑問符がつくからです。
創業計画書に営業利益の数字を書くとき、「この利益で借入の返済が賄えるか」という視点を同時に持っておくことが大切です。

「営業赤字でも融資が通る」は例外と考える
「最初の数年は赤字でも、将来黒字になる計画なら融資が下りる」という話を耳にすることがあります。
これは完全に誤りではありませんが、原則として営業利益が黒字になる計画であることが融資審査の前提と考えておくほうが安全です。
赤字期間を含む計画で融資を受けるには、赤字をカバーできる自己資金の厚みや、黒字転換の根拠となる具体的な数字の裏付けが必要です。
「将来は売上が上がるはず」という希望的観測だけでは、担当者を納得させることはできません。
営業利益が黒字になる計画を丁寧に作ること。それが融資審査の出発点です。
融資担当者が実際に確認する3つのポイント
数字を眺めるだけでなく、「どの段階で、なぜ利益が削られているか」を特定できるようになると、PLは経営の意思決定ツールとして機能し始めます。
確認すべきポイントは、大きく3つあります。
チェックポイント① 粗利率は適正か
まず確認するのは、粗利率(売上総利益 ÷ 売上高)です。
粗利率が業種平均と比べて低い場合、考えられる原因は主に二つです。
仕入れコストが高い、あるいは販売価格が低すぎる、のどちらかです。
一般に飲食業では60〜70%、小売業では20〜40%程度が目安とされており、自社の数字がこの水準から大きく外れていないかを確認してください。
創業期にありがちなのは、「まず安く売って客をつかもう」という価格設定です。
しかし粗利率が低いまま売上を伸ばしても、その後の費用をカバーできず、売れば売るほど赤字が拡大するという状況に陥ることがあります。
粗利率の問題は、販管費をいくら削っても解決しません。
根本は「売上原価をどう抑えるか」「適正な価格で販売できているか」という部分にあります。

チェックポイント② 販管費の比率は重すぎないか
ここで、法人と個人事業主では人件費の扱いが異なる点に注意が必要です。
法人の場合、経営者への報酬は役員報酬として販管費に計上されるため、PLに費用として反映されます。
一方、個人事業主の場合、経営者の生活費はPLに現れません。
そのため、一見すると販管費が少なく見えても、実際には利益の中から生活費を賄う必要があります。
創業計画を作るときは、自分の生活費を意識したうえで「本当に手元に残る利益はいくらか」を確認しておくことが大切です。
販管費の中でも特に注意が必要なのは固定費です。
家賃・正社員の人件費・リース料など、売上の増減にかかわらず毎月一定額が出ていく費用は、一度契約すると簡単には変えられません。
創業計画を立てるとき、「最初は小さく固定費を抑える」という発想は非常に重要です。売上が計画より低い月があっても、固定費が小さければ耐えられます。
逆に固定費が重い構造では、少し売上が落ちただけで一気に赤字に転落するリスクがあります。
販管費の比率が高いと感じたら、「この費用は固定費か変動費か」「削れる費用はどれか」という順番で整理してみてください。

チェックポイント③ 支払利息が経常利益を圧迫していないか
最後に確認するのが、営業外費用、特に支払利息の水準です。
営業利益が出ていても、借入残高が大きければ支払利息の負担で経常利益が大きく削られます。
創業期は特に借入額が大きくなりやすいため、「営業利益は出ているのに経常利益が薄い」という状況になりやすい時期です。
支払利息の水準を確認するとき、一つの目安になるのが経常利益率(経常利益 ÷ 売上高)です。
営業利益率と経常利益率の差が大きい場合、借入コストが利益を大きく削っているサインです。
借入は事業成長のための手段ですが、返済計画と利益計画をセットで考えておくことが、長く事業を続けるうえでの基本です。

3つのチェックを「滝の図」に重ねて考える
「どの岩が大きいか」を見るだけで、自分の事業の利益構造の問題がどこにあるかが見えてきます。
創業計画書を作る段階から、この視点でPLを読む習慣をつけておくと、事業が動き出してからの経営判断が格段にしやすくなります。
まとめ
融資審査を通過することは、事業のゴールではありません。
計画書を作る過程で自社のPLの構造を理解することが、事業を安定させる第一歩です。
今回紹介した3つのチェックポイントを持ちながら月次で数字を追う習慣をつけることが、融資審査を通過した後の経営の安定にもつながります。
融資担当者が納得する計画書とは、審査のために作られた書類ではなく、経営者自身が事業の実態を正確に把握している証として機能するものです。
「自分の事業計画のPLを一緒に読んでほしい」「数字の作り方からサポートしてほしい」という方は、お気軽にご相談ください。
初回相談は無料で承っております。
Kuraコンサルティング 松田
