「儲かっているのにお金がない」はなぜ起きるのか |経営者が知っておきたい、利益と現金の違い
前回は、事業におけるお金の「回転速度」という考え方を見てきました。
今回はそのカギとなる、利益と現金の違いを整理します。
食品を扱う小売店のオーナーから相談を受けたことがあります。
「翌月10日の支払いのたびに、複数の通帳からお金をかき集めているんです。
請求書を並べて、今月はどれを払えるか考えながら……。
給料の支払いが遅れたこともあります」
試算表を見ると、前年対比で営業利益はプラス。
数字の上では、順調に利益が出ている状態でした。
ところがよく見ると、季節需要を見込んで仕入れた在庫が積み上がっており、
現金だけが先に出ていっている状態でした。
帳簿は黒字。
でも、現実は自転車操業。
これは珍しいケースではありません。
「利益は出ているはずなのに、なぜ資金が苦しいのか」
その答えは、利益と現金の違いにあります。
利益と現金は、別のものである
会計上の「利益」と、手元にある「現金」は、必ずしも一致しません。

この「タイミングのズレ」が、利益と現金の乖離を生みます。
では、具体的にどんな場面でズレが起きるのか。7つの場面に整理してみます。
現金と利益がズレる7つの場面
創業・安定期に起きやすいパターン

① 掛け売り(売掛金) 商品を納品した時点で「売上」は計上されますが、代金の入金は翌月末。会計上は利益が出ていても、現金はまだ手元に来ていません。
② 前払い経費 広告費や保険料を年間一括で支払った場合、現金はすでに出ていきますが、費用は毎月少しずつ計上されます。現金は減っているのに、帳簿上の損失は小さく見えます。
③ 設備投資 100万円の機械を購入すると、現金は一気に100万円減ります。しかし費用(減価償却)は耐用年数に応じて複数年に分散して計上されるため、PLには毎年少しずつしか費用が現れません。現金はすでに消えているのに、損失として見えにくい構造です。
成長・拡大期に起きやすいパターン

④ 在庫の積み上がり(棚卸資産) 商品を仕入れると現金はすぐに出ていきますが、売れるまでは「資産」として計上されるため、費用にはなりません。つまり現金は減っているのに、利益は減らない。需要を見込んだ大量仕入れや、売れ残りが続く状況では、このズレが一気に拡大します。
⑤ 借入返済と過去の未払金 借入金の元金返済は、PLの費用になりません(利息部分のみ費用)。帳簿上は損失にならないまま、毎月現金が出ていきます。また、過去の赤字期に後回しにした未払金の清算が始まると、利益が出ていても現金が一気に流出します。「PLは改善している。でも資金が苦しい」という声は、まさにこのパターンです。
見落としがちなパターン

⑥ 税金の支払い 法人税・消費税は、利益が出た翌期にまとめて納付します。日々の支払いに追われているうちに資金手当てが後回しになり、納付時に現金が不足するケースは少なくありません。
⑦ 役員貸付金・仮払金 オーナー経営者が会社のお金を個人的に引き出し、帳簿上は「会社への貸付」として処理しているケース。資産として計上されるため損失にはなりませんが、実態は現金の流出です。「後で返せばいい」と積み重なると、気づいたときには相当な金額になっていることがあります。
黒字倒産は、成長期にも改善期にも起きる
この構造を理解すると、黒字倒産のメカニズムが見えてきます。
典型的なのは急成長期です。
売上は伸び、PLは黒字。
しかし売上が増えるほど、売掛金(まだ回収できていないお金)も増えていきます。
同時に仕入れや人件費の支払いは先に出ていく。
結果、帳簿の上では黒字なのに、支払日に現金が足りないという状態に陥ります。
見落とされがちなのが経営改善期です。
赤字から脱却し、PLが黒字に転じても、過去の赤字で傷んだBS(貸借対照表)はすぐには回復しません。
借入残高は高止まりしたまま、未払金も残っている。
利益が出ているのに、その利益が過去の負債の返済に消えていき、手元に現金が残らない状態が続きます。

だからこそ、「資金繰り計画」が必要になる
損益計画(PL計画)だけでは不十分な理由がここにあります。
PLは「利益が出るか」を確認するツール。
それとは別に、「いつ現金が入り、いつ出ていくか」を管理する資金繰り計画が必要です。
資金繰り表とは、一定期間の現金の入りと出を時系列で並べた表です。
PLが「成績表」なら、資金繰り表は「家計簿」に近いイメージです。
資金繰り計画を作るときのポイントは、「出ていくお金から先に固める」ことです。
財務支出の計上(借入返済額など、金額と日付が確定しているもの)
固定支出の計上(給与、家賃、社会保険料など、毎月発生する経費)
現状確認(売上がゼロとなった場合、何ヶ月で資金が不足するかを確認)
売上入金の計上(合理的な根拠に基づいた見込みを後から加える)
※ステップ3の「売上ゼロなら何ヶ月もつか」を先に確認することが重要です。
最低でも3ヶ月分の固定費が手元にある状態を維持することが、
事業継続の最低ラインになります。
資金繰り表の具体的な作り方・使い方については、次回の記事で詳しく解説します。
おわりに
「利益」は事業の成績を示す数字。
「現金」は事業を生き延びさせる血液。
この2つは別物だと知っているだけで、経営の見方が変わります。
あなたの事業は、売上がゼロになったら何ヶ月もちますか?
この問いにすぐ答えられる経営者は多くありません。
だからこそ、今のうちに資金繰り表を作っておくことが大切です。
「何から手をつければいいかわからない」
「一緒に資金繰り表を作りたい」
という方は、お気軽にご相談ください。
Kuraコンサルティング
